不安神経症について




誰にでもストレスがたまってイライラしたり心臓がバクバクするような感じがしたり、いきなり『何か忘れてるんじゃないか?』とか『何か悪い予感がする』などの不安な気持ちになったりした経験はあるはずです。期限や納期に追われたり、交通渋滞にひっかかったり、人間関係でどうしても逃げられない状態に追い込まれた時など、ストレスの素はあちこちにゴロゴロ転がってます。葉月がよく患者さんに言うのは『アブノーマルなシチュエーションに対しての、ごく普通のノーマルな反応だ。』ストレスのたまる環境にいる人間にストレスがたまらない事の方がおかしいと思いませんか?

でもそういった不安感は時に普通に生活できないくらい深刻なものになることがあります。これから紹介する不安神経症の種類は本人にとってはかなり深刻な問題ですが、キチンとした治療によって回復したり、症状をやわらげ、『もとの自分』に帰ることが可能なのです。

ここで注意したいのは、これらの症状のひとつひとつはたいていの人なら経験したことがあるものだということです。だから自分にあてはまるものがあったとしても必ずしも不安神経症であるとはいえません。これらの症状が深刻なものであるという一番簡単な目安は『その症状のために普通に生活できな』または『普通に生活できているんだけどかなりしんどい』です。メンタルヘルスの専門家はその目安をよく理解しています。よく分からない場合は自分で悩まずに必ず専門家に相談してください。

もうひとつ注意したいのが、日本とアメリカの語彙の違い。日本には『ノイローゼ』という言葉があります。英語でいうとNeurosisなのですが、実はこれはアメリカの臨床心理学ではあまり使われていない言葉です。いろいろ調べてみたのですが、『ノイローゼ』の日本語でのニュアンスで一番近いと思われるのがこれから紹介するAnxiety Disorders(不安神経症群)です。

まず、不安神経症にはいろいろな種類があります。

一般不安神経症 Generalized Anxiety Disorder
健康やお金など様々なことについての極端な不安感と心配、何か悪いことが起こるのではないかという不安感が続き、そのために普通の生活ができない。その他の症状は落ち着かない、疲労感、集中できない、イライラする、肩こりなど筋肉の緊張感、安眠できない、などがあります。

  • パニック障害 Panic Disorder
    突如激しい不安感や恐怖感に襲われます。症状は個人差があります。いきなり心臓がバクバクする、汗、震え、息がつまったりできない感じがする、胸がいたい、吐き気または腹痛、めまい、現実感の喪失(魂が体から離れる感じ、でしょうか)、自分に対してのコントロールがなくなったり気が狂うのではないかという不安感、死に対する恐怖、(手や指などが)無感覚、またはピリピリする、そして寒気またはいきなり暑くなる、などの症状が4つ以上ありそれらが発生するのが『いきなり』であること、そして10分以内でピークを迎えることなどの条件があります。パニック障害の人々は次にいつパニックが起こるか非常に悩み、自分の生活やスケジュール、行動を制限してしまう場合が多いです。

  • 恐怖症 Phobias
    何ある物体や物事に対しての激しい恐怖感です。動物(犬とか)に対する恐怖感や、飛行機にのることに対しての恐怖感など様々です。
    アメリカでいうSocial Phobia(公共や社交的な場にでるのを恐れる)というのと日本でいう対人恐怖症というのは違う様です。DSM-IVの付録に『文化に関係のある症候群』というのがあるのですが、それにTaijinn Kyofusho(対人恐怖症)が載っています。これによると、日本でいう対人恐怖症は自分の臭い、行動、身体的特徴やが他人に嫌がられるのではないかという恐怖感のことをいっており、日本特有のものだそうです。アメリカでいうSocial Phobiaは人前へでたときに自分が何か恥ずかしいことや人に笑われるようなことをするのではないかという恐怖感があります。Social Phobiaは最近になってPaxilという抗不安剤がでたので一般の間で有名になり、心理学者や精神科医の所へくるひとが増えたそうです。でも治療の話はまた別のところでしますね。

  • 強迫神経症 Obsessive-Compulsive Disorder
    自分で止めることのできない強い考えが頭の中にありその考えに執着してしまい、ある行動をくり返すことによってその頭の中の考えを止めたり和らげたりしようとするのだけれど、その行動をくり返さずにいられない状態です。例としては病気がうつるのを恐れて肌がすりきれているのに手を洗い続けたり、日常生活ができないくらい掃除に時間を費やしたり、または失敗するのではないかという恐怖感から、何度も何かをチェックしたりなどです。そういった恐怖感は常識的は考えられない事柄であることが大切な条件です。その人の頭の中にある通りある行動を行わなければいけないなどの厳しいルールがあり、その行動を行うことによって、自分の感じている圧迫感やストレスを和らげるという目的があります。

  • PTSD
    犯罪や災害の被害にあったり、生死に関わる経験(交通事故など)によって起こる身体的、精神的なトラウマによって起こります。症状は個人差があります。トラウマ的な出来事、イメージ、感覚などを突然思い出す(フラッシュバック)、それについての悪夢を何回もみる、その出来事がまた起こるのではないかという予感があったり、また幻聴、幻覚、無感覚になった時におこるフラッシュバックなどによってそのトラウマを再び経験する、その出来事を思い出させるものに対する心理的ストレスや身体的反応などのトラウマの再経験があり、自分の考えや感情、行動などに大きな影響を与えます。

    治療について

    専門家による治療によって、回復が可能です。大きく分けて心理療法(セラピーやカウンセリング)と、薬療法があります。アメリカでは言うまでもなく心理療法は心理学者やその他のメンタルヘルス専門家、そして薬は精神科医(内科医などでも薬はもらえるが、専門は精神科)へ行きます。

    心理療法で不安神経症に利き目があるといわれているのが『行動セラビー(behavioral therapy)』そして『認識セラピー(cognitive therapy)』があります。行動セラピーは様々なテクニックを使って自分が止めたい行動をやめさせることです。例としては深呼吸などのリラックス法を練習し、不安感をしずめるトレーニングをするなどです。認識セラピーは、なぜ不安感を感じるのか、何が自分を不安にさせるのかなど理解することにより不安感を和らげるものです。自分の考えや感情を観察分析し理解するトレーニングをします。だいたいの場合はこの二つの療法を同時に行います。

    症状がかなり深刻な場合や、患者が望む場合は薬による治療を行います。薬といっても種類によっては速効性のあるものや、1ヶ月くらいたたないと効果を感じられないものなどいろいろあり、副作用もいろいろあります。しかし重度の不安神経症の場合、薬と心理療法の二つを同時に行い、心理面と生体面の両方から治療していくことが大事かと思います。





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